癒しを追及するカウンセラー・鈴木孝信の「心が強くなる心理学」

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飲酒と癌-依存症の治療

   

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先日大変ショッキングな情報が発表されました。

http://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/JCO.2017.76.1155 (米国臨床腫瘍学会サイト)

米国臨床腫瘍学会からの声明(statement)です。声明では飲酒とがん発症に関連性があると報告されています。

この声明によると、飲む量が多くなればなるほど、がんのリスク(特に口、喉、食道等アルコールが直接触れる部位)が高まるとのことでした。

http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_alcohol.html (厚生労働省サイト)

厚生労働省によると、2003年の調査で、多量飲酒の人は860万人、アルコール依存症の疑いのある人は440万、治療の必要なアルコール依存症の人は80万人いると考えられているようです。

これだけ多くの人ががんのリスクにさらされている実情には、さまざまな要因がありますが、特にアルコールが心理的・物質的な依存を作り出す点が考えられます。

依存症には脳の報酬系がかかわっていると言われます。心地よさや気持ちよさを体験することで報酬系は強められ、次の刺激(心地よさや気持ちよさ)を求めやすくなります。いわゆる心理学で言う条件付けです。そうなると、行動の頻度も高まり、実際に行動することでさらに報酬系は強められます。そこにコントロール感が失われた状態が、依存症です(日本生物学的精神医学会誌 21(1): 33-38, 2010)。

依存症の治療は簡単ではありません。コントロールが効かないところに、意志の力で努力をしてもらうこと(つまり断酒をする)ことが一般的です。例えばものすごくお腹が空いている状態なのに、目の前に用意された大好物のフライドポテトが食べられない、否、自制する、という状況を想像してみるとなんとなく感覚はつかめると思います。目の前のポテトを我慢するだけなら良いのですが、想像にも耐えないといけない(お腹が空いている時は食べ物のことが頭に浮かびますよね)。この苦しみは(人には見えませんが)耐えがたいものがあります。だから当然周囲のサポートが必要になります。そこには医師や心理士、または自助グループの仲間、そして家族や友だちの支え(断酒を継続するための)がとても役立つのです。

こういった状態を改善するのに有効である、という体験が少しずつ積み上げられてきたのが心理療法「ブレインスポッティング」です(セラピー体験に基づく知見であり臨床研究による知見ではありません)。「ブレインスポッティング」のコミュニティーでは「依存症に対する手段」も具体的に検討され、また「ブレインスポッティング」による依存症への効果やメカニズムに関する研究も進んでおり、今まさに依存症に対する突破口の可能性が開かれているのです。

依存症はコントロール感が制限された状態です。これはあくまでも「ブレインスポッティング」の専門家としての私見ですが、この状態の中で、セラピストから力強く支えられることによって、その欲求を満たさないことに関する身体的・感情的・認知的な情報を「ブレインスポッティング」は「フォーカスして」処理すると考えられます。報酬系を働かせた状態を自分の力で乗り越える、このことを繰り返すことで、脱条件付けが促進され、報酬系が弱くなり(または報酬系とのアルコールとの関連が弱められ)コントロール感を取り戻し始めていく。具体的には断酒を続けやすくなる(トリガーが引かれたときに、そこから抜け出す手段が増える)のでは、と個人的には考えています。

アルコール依存症あるいは依存症といった難しい状態には、様々なレベルでサポートが必要となります。今後「ブレインスポッティング」が、このサポートの強力な1つとして、患者さん、あるいはご家族、そして医療において認識されていくことだと僕は考えています。

 

 

 

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