癒しを追及するカウンセラー・鈴木孝信の「心が強くなる心理学」

鈴木孝信が贈る、欧米の最先端心理療法に基づいた、読むだけで心が強くなる心理学情報ブログ

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「あたしおかあさんだから」共感する人・反感する人

   

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今話題になっていますよね。子育てを頑張る(とても献身的に)お母さんのイメージが印象的な歌ですが、批判も出ているようです。人の心理の多様性を考えると、批判(それが妥当であろうがなかろうが)が一切ないものはないと思いますが。
なので、ちょっと考えてみたいと思ったのは、この歌を聞いてとても共感した人、とても反感を感じた人が、何を体験しているのかという脳内実験です。つまり、この歌を聞いた体験が、この両極端の人たちの中でどう消化され、どうその後の考え方や感じ方、行動の仕方に影響を与えていくかということですね。

●共感をした人
共感とは「他人の立場でみて、相手の感情、欲求、反応を理解すること」ですが、カウンセリングにおける共感の量的研究で言うと、共感は大きく認知的なもの、感情(情動)的なもの、に分類されます。歌に共感するということは、歌詞と歌い手の感情(歌にのせた)の情報に「分かってもらえた」と感じることです。共感の質的研究でいうと、共感が起きた後には、そのことに関する処理が進むことが分かっています。つまり、この歌に共感を感じた人(例:現役お母さん)に起こることは、歌の内容に関する自身の体験(例:子育て体験)に関しての悩み(大方自己犠牲)が解消される方向に脳が動き始めるということです。するとその人らしいクリエイティブな解決法に至りやすくなり、結果として現実的に楽になります。

●反感を感じた人
自分の考え方や体験と一貫しない情報が入ってくると、葛藤が生じます。葛藤を起こす情報処理自体が身体を活性化させます。大脳新皮質は、不明なことに、直線的な理由(原因と結果)をつけたがるので、この不明な身体の高ぶりを無意識にネガティブな感情(大方怒りや不安)であると判断します。これが反感のもとです。カウンセリングの量的研究で分かっていることは、共感の少ない、つながり(作業同盟)の少ないセラピー関係は、破綻しやすいということです。つまり、歌との関係が破綻し、歌から意識を離そうとします。そしてこの自動的な考え方や行動に対して大脳新皮質は「相手のせい・自分のせい」のいずれかで理由をつけようとするのが、帰属スタイルの研究で分かっています。相手(歌)のせいと理由づけると炎上の元になるような行動にも出ますし、自分のせいと理由づけると気分が落ち込みます。

多くの人に触れる情報には影響力があり、どの情報を触れさせるかという選択は、とても慎重に行われるべきことだと思います。そしてそれを決定する人は大きな責任を背負います。人間の多様性を考えると、期待する結末を狙って重い決断をすることはできません。きっと僕たちはそういった予測不能なことがたくさん起きる時代に生きているんだと思います。そんな中で僕たちが出来る最善は、自分の中に起きることに責任を持ち、自己完結する(願わくば成長の糧とする)心を培っていくことだと思います。

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