癒しを追及するカウンセラー・鈴木孝信の「心が強くなる心理学」

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過去のトラウマ克服で強迫性障害が大きく改善

   

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強迫性障害は「ドア鍵」や「ガス元栓」を確認したり、また「手洗い」等を何度も繰り返すことで知られる、とても苦しい病気です。簡単に言うと、心配性が行き過ぎて、現実気にしなくても良いと一般的に思えることにも心配をする(強迫観念)ので、その心配を解消するために行為を行う(強迫行為)、というものです。

強迫行為には、確認作業や手洗いのほかに、儀式的な行為と呼ばれる、何度も読み書きしたり、整理整頓したり、というものもあります。これはある意味、誰でも体験することです。例えば、僕の例では、小さいころにTV等で「夢かどうかを調べるためにほっぺたをつねって痛かったら夢じゃない」という考え方を見てから、何か現実感を知りたいときに、痛みを感じようと口の中を噛むというのが大学卒業近くまでありました。これは頻度や程度が小さいので日常生活には支障がありませんでした。だけれど、こういった行為は行き過ぎると歯止めが利かなくなり、日常生活に大きな支障をきたすものです、例えば血が出るまで噛み、それが1日に数十回もあるということでは口内の病気に繋がり、健康を害し、大きな苦しみのもとになりかねません。

強迫性障害がどれくらい重症かということを測定する質問紙として、パドゥア・スケールというものがあります。60個の質問項目から成り立ち、生活面の様々な強迫の度合いを0~4の数字(合計0点~240点)で答えるものです。合計点で、健常者平均は40点、強迫性障害で治療を受けている患者さん平均が80点です。

この質問紙の点数が、カウンセリング開始時に113だった方が、過去のトラウマを処理していくことで劇的な改善を果たしたので、ご本人了承済みでご紹介します(プライバシー保護のため一部事実を変更してお伝えします)。

Kさんは20代後半のイラストレーター。まだ十分に本業では生計が立てられないので、深夜のコンビニアルバイトをしながら一人暮らしをする男性です。親元から独立し東京へ引っ越して来た際に、孤独感と将来への不安、新しい環境になかなかなじめないストレスから、自宅アパートにいる際にパニック発作を起こしたことが、東京多摩ネット心理相談室を訪れたきっかけでした。

金銭的にも余裕のないKさんに対して、4回のセッションでパニック発作を止めるという条件でカウンセリングをスタートしました。レニハン認知療法の実施で、パニック発作に対する不安は軽減し、4回のセッションで発作はほぼ完全に止まりました。いったんカウンセリングを終了した2か月後、Kさんから再度連絡がありました。本業の方で本のイラストという初めての大きな仕事を受けた際に「以前から多少あった強迫症状がひどくなった」のでした。下描きをスキャンしてパソコンのソフトで仕上げていくというスタイルのイラストを描いているKさんでしたが、どうしても「下描きで納得がいくまで消しては描いてを繰り返して先に進めない」と〆切からのプレッシャーに押しつぶされてしまっているようでした。

2週~3週に1度のカウンセリング、という条件で再度強迫症状を克服するためのカウンセリングをスタートしました。その際に実施したパドゥア・スケールのスコアが113。上記にもあるよう、強迫性障害の患者さんの平均80を大きく上回る数値で、詳しい話を伺うと、生活の様々な側面で強迫症状が現れていることが分かりました。精神疾患の診断書、DSMの強迫性障害の診断基準も満たしていました。これに対して、そのころ鈴木が覚えたてだったブレインスポッティング(Brainspotting)を実施していくことで同意を得ました。

それから約1年後、過去の様々なトラウマを取り扱い、Kさんは、だんだんと冷静さ、落ち着き、穏やかな心を取り戻していきました。むしろ、何も問題が起きる前よりも、冷静さが増しているような実感を感じていたようでした。Kさんはこう話していました。「パニック、そして強迫がなかったら自分をこれほど見つめることができなかった。自分を見つめたからこそ、自分を許していける自分になった。自分には知らないことがたくさんあり、知らないことを知ることを不安にも感じることに気が付いた。そしてそれに喜びを感じることにも気が付いた。病気のおかげでそんな自分になれたと思う」。そして、イラストの仕事でもだいぶ強迫症状が和らいだ/対処可能になった頃に再度パドゥア・スケールを実施しました。その結果を下のグラフにまとめました。

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(左の赤いバーがカウンセリング開始時。右の赤いバーがカウンセリング1.5年後。中央の青いバーは左が強迫性障害患者の平均、右は健常者平均)

Kさんの1年半が、彼の人生の中でとても大切な時間になったことであろうことを、このグラフが示しています。強迫性障害の患者さんの平均値を大きく超えた程度の強迫症状からスタートし、健康な方の平均を下回るところへたどり着いたのは、一時的な気まぐれだとか気分の高揚ではありません。これは彼自身の成長の成果であり、カウンセリングを止めたとしても元の強迫症状が戻ることは考えにくい確固たる変化です。

強迫症状が、過去のトラウマを扱うことで改善するという例をご紹介しました。この背景には、Kさんの生きていく力の強さが前提にあり、Kさんを支えてくれた、同様に強迫性障害を劇的に克服した先輩相談者というモデルの存在、またKさんのバイト先の仲間の存在がある中で生じたものです。様々な要因があり、Kさんは良くなるべくして良くなったのだと、僕は実感しています。この記事が、同じように辛い状態に悩む方の目(耳)に届き、心に届き、そして動き出すためだけのエネルギーを掻き立ててくれることを僕も、そしてKさんも願っています。

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