癒しを追及するカウンセラー・鈴木孝信の「心が強くなる心理学」

鈴木孝信が贈る、欧米の最先端心理療法に基づいた、読むだけで心が強くなる心理学情報ブログ

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嫌なものも気にかければ終わってくれる

   


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炎天下の中、駅から10分程ある場所に歩いていた。
冷房のガンガンきいた車内から出た時の肌に、まとわりつくような蒸気にも感じられる熱。
この暑さで歩けば誰でも汗はかく。
ただ僕は汗が嫌いだった。
もちろん、必要以上の汗も、通常の汗も、運動している時以外は嫌いだった。
だから、暑さ、汗、足の筋肉の動き、肌に滲む蒸れ等に注意が向かないよう、それらとは無関係な身体の部分(指の接触部)に注意を向けながら歩いた。あわよくば「心頭を滅却すれば火もまた涼し」が起こるのではないかともくろんで。
ゆっくりとした歩行。
いつもの半分位の速さだが・・・。
そして気がついたのは、額を流れる汗ではなく、喉の違和感だった。
稀とも言える息苦しさを感じた。
脳神経学では、脳幹の疑核というところが、喉や心臓、肺等につながっており、落ち着いているときは迷走ブレーキが働いていているが、身体が反応すべき状況(運動等)になると、このブレーキが外れて交感神経系が働き、喉や心臓、肺等の活動が強まる(心拍が早くなる等)。
そこで、歩くことに注意を向け、暑さも否定せず、今のありのままの状態を受容し始めた。
すると息苦しさは消え、身体が軽くなったように感じた。
そこで思った。
これが脳の情報処理の働き方なのだと。

※※※

これは僕の個人的な見解ですが、現在起きていることから注意をそらすと、そのことが適切に処理されず、おかしな形で思考や心身の症状として現れてくることがあるように思えます。歩いていることに注意を向けず、別のこと(指の感覚)に注意を向けていたので、手足の筋肉の動き、交感神経の活性化、コルチゾール等のホルモン分泌が適切な形で起こらず、起こるはずだという情報だけが、脳に残るのかもしれません。

神経可塑性では、注意を向けた対象の神経結合が変わったり海馬で神経の新生が起きます。注意を向けた経験の一部(指の感覚)を反映した脳の部分(あるいは活性のパターン)は働きますが、注意をそらそうとする経験の大部分(筋肉・神経・ホルモンの機能に関連する脳)は適切に働からないのかもしれません。人間は現実の中の注意を向けた一面を主に経験するので、注意をそらそうとする残りの面に関しては、十分に処理されることはないのかもしれません。つまらない授業のように、先生の声という情報が遮断されている場合ではなくて、特に体を動かすこと、身体の反応のように、余儀なく情報が入ってくる(作られる)時は、そう言えるのではないかと思います。


(神経可塑性を説明する海外の動画に字幕をつけてご紹介しています)

例えば、嫌な出来事が起きた後、それを「考えないようにする」ことは誰でも経験することだと思います。誰かに傷つけられることを言われたとしたら、その情報に関する身体的、感情的、そして認知的な処理は起こる必要があります。嫌な気持ちになりたいくないがために、注意をそこから一生懸命そらそうとすると、必要な処理が止まってしまいます。すると、いつまでも脳裏に蘇っては、そこから気をそらすという繰り返しになります。僕はセラピストとして、トラウマを受けた相談者の方が、生々しい、そして触れられていないトラウマの記憶、そしてそれに関係する身体・感情・認知の処理を体験するのを多々目撃しています。

これらのことから、暫定的に思うのが「注意を向ければ(それが嫌なことであっても)処理が終わる。さけていたら処理は終わらない(それが嫌なことのまま)」ということです。これはセラピーの間は、相談者の方を導くうえでとても大切な考え方だと思います。

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