複雑な問題を抱える方には治療者との関係性が一番効果がある⁉
2014年にJournal of clinical psychologyに掲載されたスイスの論文をかみ砕いてご紹介します。
日本でも昨今PTSD(外傷後ストレス障害)への社会的認識が深まってきたかと思っています。
ブレインスポッティングもトラウマを治療対象としていますが、実は心理学研究の先駆けであある欧米では、PTSDへの治療法のエビデンス(効果を示した研究結果)はまちまちなんです(臨床レベルでは、●●が一番効果があるだとか、××はあまり効果がないだとか、色々主張する方もいます)。そういった状況の中、色々な研究を総合して再検討するメタ分析と言う方法を新しい視点で行ったのが、このご紹介したい研究です。
この研究では、臨床試験の被験者(患者さんや相談者さん)の抱える問題の種類に着目しました。そしてcomplex(複雑性)のPTSDとnon-complex(複雑性ではない)PTSDとの2つに区別して今までのメタ分析を改めてメタ分析してみたんです。ちなみに、複雑性とは、幼少期における虐待(心理的、身体的、性的)のために複雑化したPTSDのことを主に指しています。
すると、画像の様な結果が分かったんです。何を意味しているかと言うと、complexのPTSD(下)では、特別な介入法を含む方法(いわゆる様々な●●心理療法)と、そういった介入方法を含まない方法(いわゆる支持的療法)との比較で、ほとんどその効果に関して差がないということを意味しているんです。つまり、例えばブレインスポッティングをするのと、傾聴を中心とした(何か特別なことをしない)トークセラピーをするのとでは、その差がほぼない。
※ただ、complexではないPTSDでは、いわゆる様々な●●心理療法の方が効果があるようです(一方で有力な研究家の中には、研究方法に問題があるので誤って●●心理療法の方が効果があるという結論に至ってしまっている、と主張する研究者もいます)。
この研究を踏まえて僕が思うことは次の通りです。
・特別なことをしない「支持的療法」には、complexの問題を抱える方に対して効果がある
・complexの問題を抱える方は非常に多い(むしろnon-complexのPTSDは少ない様に思える)
ゆえに
・支持的療法は多くの方に効果がある
そして
・支持的療法は、セラピストと相談者(患者)さんとの関係性が基盤にある
ゆえに
・多くの方に対してセラピーの関係性が最も効果のある要素である
ということです。ブレインスポッティングは、この関係性の力を最大限に引き出す方法だと僕は信じています(し、そう言える根拠を作っていきたいと思っています)。
参考文献
JOURNAL OF CLINICAL PSYCHOLOGY, Vol. 70(7), 601–615 (2014)